Location: Home > 挑戦!化学グランプリ! >  1次(筆記) >  気体の特異性 ['07-1-1a]



【1】は、主に理論化学に関する問題です。

化学グランプリの問題は、きちんと読めば、大部分は解けるはずなので、
まずは問題を読んでみて下さい。

 
  必要があれば,下記の数値を用いること。
  なお,単位の表記法は,下の例を参考にすること。

  (例) J mol-1 K-1 = J / (mol⋅K)


原子量:
H = 1.0    O = 16
気体定数          R = 8.314 J mol–1 K–1
円周率           π= 3.14
273 K, 1.013×105 Pa (= 1 atm)での気体 1 mol の体積 = 22.4 L

log 2 = 0.3010    log 3 = 0.4771    log 7 = 0.8451



 
  我々人間は陸上生物であり,空気(大気)という気体環境中でしか生存できない。しかし我々は現在,我々自身の活動に起因する「空気(大気)」の変化に直面している。その変化による環境の急変が様々な悪影響をもたらしうることを常に認識しながら,今後の人類社会を設計・構築していく責務がある。特に日本は世界の中でも最も多くの二酸化炭素の排出を続けている国のひとつであり,責務は大きい。そのため,我々はより深く空気(大気)を含む「気体」の基本的な性質を学んでいく必要がある。ここでは気体の性質の一端にかかわる下記のいくつかの問題を考えてみよう。

問1 次のア〜ウの文は,環境問題として取り上げられる種々の気体に関して記述したものである。@〜Fの空欄に当てはまる語句として最も適当なものを,下のA〜N から選び,記号で答えなさい。ただし,同じ記号を繰り返し用いてもよい。

ア:大気圏内には,特に温室効果が顕著な二酸化炭素,一酸化二窒素,( @ ),( A )などの気体が存在する。これらが増加すると,地表の平均気温が上昇する。

イ:地表から約15〜35 km の範囲にはオゾン層が存在する。酸素分子が( B )により酸素原子に分解し,それが他の酸素分子と結合すると,オゾンが生成する。近年( C )の分解によって生じる( D )ラジカルによりオゾン層の破壊が起きている。

ウ:自動車の排出する( E )が,地上到達前の雨水と酸素と反応して( F )を生成することが酸性雨の一因となる。

A フロン B 酸素 C 窒素 D メタン E 赤外線
F 可視光線 G 紫外線 H 窒素酸化物 I 金属酸化物 J 有機物
K 塩素 L フッ素 M 硫酸 N 硝酸



問1 ア 選択肢の中の気体の中で、温室効果ガスといえば、
フロン(A)メタン(D) ですね。
フロンはオゾン層の破壊だけでなく、地球温暖化も引き起こしているのです。

京都議定書において削減対象となっている温室効果ガスは、
二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、代替フロン、六フッ化硫黄(SF6です。
他に温室効果ガスとしては、水蒸気(H2O) なんかも有名ですね。


イ オゾン(O3)は酸素の同素体で、酸素中で無声放電を行うか、酸素に強い紫外線(G)を当てると生成します。
成層圏において、オゾンは主に3200Å以下の紫外線を吸収して分解し、もとの酸素分子に戻ります。
この反応によって、生物にとって有害な3200Å以下の紫外線が地表に届くのを防いでいるのです。

ところが、近年、フロン(A)の分解によって生じる塩素ラジカル(K)により、
オゾン層の破壊が起きています。

フロンは、正式には、クロロフルオロカーボン(クロロ=Cl、フルオロ=F、カーボン=C)と呼ばれ、
炭化水素の水素をフッ素や塩素で置換した化合物の総称です。

フロンは化学的に非常に安定で、容易に分解せず、約10年かかって成層圏まで拡散していきます。
フロンは成層圏で強い太陽の紫外線を受けて分解し、塩素ラジカル(Cl・)を生じます。
塩素ラジカルとは、不対電子を持つ原子、要するに、塩素原子そのものです。

この塩素ラジカルがオゾンをぶっ壊していくわけですが、
厄介なことに、この塩素ラジカルは、オゾンを分解しながら、自らも再生するのです。

Cl・ + O3 → ClO・ + O2
ClO・ + O・ → Cl・ + O2

この辺の詳しい反応については、化学グランプリ2006年度の第1問の問題にあるので、
そちらを参照してください。(いい加減な48K部長であった。)


ウ 酸性雨の原因と言えば、ソックス、ノックスですね。
つまり、硫黄酸化物(SO)、窒素酸化物(NO(H)です。

これらは、地上到達前の雨水と酸素と反応して、
それぞれ硫酸(H2SO4)と硝酸(HNO3(N)を生じます。

私たちは、雨の日には、希硫酸と希硝酸の溶液を被ってるわけなんですね。

そりゃ、ブロンズ像だって溶けてまうわ。


 

  気体に特有な本質的特徴とは何か考えてみよう。身の周りで目にする物質の状態は気体・液体・固体の3 種類である。この中で液体と固体は圧力を変えてもほとんどその体積は変わらない。これは物質の構成要素である原子や分子が,液体や固体状態では相互にほとんど隙間なく密に存在するからであり,液体や固体が凝縮相と呼ばれるゆえんである。これに対して気体では構成要素が互いに大きく離れており,ほとんどが隙間である。例えば,室温(20 ℃)において,1 mol の
水は液体状態では通常( ア )mL 程度であるが,これが気体になると1 気圧でほぼ( イ )L になる。また,固体の密度は液体のそれとあまり変わらない。すなわち,液体・固体は気体と比較して一般に( ウ )桁程度密度が大きい。このため液体や固体と対照的に,気体は稀薄相と呼ばれる。上記の理由により,気体は凝縮相とは異なり,容易に圧縮・膨張させることができる。この性質は日常生活でも工業でも意識的あるいは無意識に,無数に応用されている。この性質に関して,以下の基本的な実験を行った。


[実験]

@ 断面積1.00×10-4 m2 のシリンダーに,密閉性が高くかつ滑らかに動く重さ100g の鉤(かぎ)のついたピストンを取り付け,空気を閉じ込めた。シリンダーの中と外の間の空気の交換は完全に防げた。次に,この鉤つきピストンが鉛直下向きになるようにシリンダーを台枠に固定した(図1)。

A ピストンの鉤に200g のおもりを吊
るしたとき,シリンダー内の気体の体積は1.50×101 cm3 になった。

B ピストンの鉤に400g のおもりを吊
るしたとき,シリンダー内の気体の体積は2.08×101 cm3 になった。

C 大気圧を測定したら1.00×105 Pa (=N m-2 )だった。

 なお、これらの実験を通じて、気温は一定であったとする。
 



図1 気体の膨張に関する実験装置



問2 上記の文中の空欄( ア ),( イ ),( ウ )に適当な数字を入れなさい。( ア ),( イ )は有効数字2 桁,( ウ )は有効数字 1桁でそれぞれ答えなさい。

問3 上記のAのときのシリンダーに封入された空気の圧力は何 Pa か。有効数字 3桁で答えな
さい。ただし,重力加速度g は9.81 m s-2 であるとする。

問4 上記の実験結果から,シリンダーに封入された空気の圧力P と体積V の間には,ある関係
が成立することが分かる。P とV の関係について記述した以下の文において,(a)についてはア〜
エから適当なものを選び記号で答えなさい。また,(b)については,あてはまる数値を単位もつけ
て有効数字 2桁で答えなさい。

『P とV に関して,(a) (ア.PV  イ.P/V  ウ.V/P  エ.P + V) は一定であり,今回の実験にお
いて,その値は(  (b)  )である。』



問2 (ア) 室温(20 ℃)での、1mol の液体の水(H2O)の体積は、
原子量として、H = 1.0 、 O = 16 が与えられているので、
18g と分かりますね。

ここで、水の密度は室温付近では、ほぼ 1g = 1cm3 なので、
その 1mol の液体の水の体積は、18g = 18cm3 = 18mL となります。
有効数字2桁で答えてますね。


(イ) 室温(20 ℃)、1 気圧での、1mol の気体の水(H2O)の体積は、
273 K, 1.013×105 Pa (= 1 atm)での気体 1 mol の体積 = 22.4 L
という条件が与えられているので、22.4L。
有効数字2桁なので、22L …というのは間違いですね。

そうです! 温度の条件を無視していますね。

圧力一定のもとで、気体の体積V は絶対温度T に比例する。
V ∝ T
V
1/T1 = V2/T2

という、シャルルの法則
を適用しましょう!


室温 20℃(= 293K)での体積をV2とすると、

22.4 / 273 = V2 / 293
∴ V2 = 24.04… ≒ 24(L) となります。


(ウ) 1mol あたり、液体は18mL、気体は24L(= 24000mL)。

つまり、気体状態での密度の方が、1000(=103)倍大きい、
すなわち、3桁程度大きいのです。



問3 物理、特に力学の問題ですね。
力学においては、まず、物体に働く力を書きだすのが基本です!

では、図1に書き込んでみましょう!

 


その上で注目するのは、封入された空気と鉤つきピストンとの境界面ですね。


  ← このような図で表せますね。

 青字は、大気圧による力
 緑字は、封入された空気の圧力による力
 赤字は、鉤付きピストンとおもりに働く重力の和です。

 おもりに働く重力が、作用線上からズレてますが、あまり気になさらないよう。

さて、そもそも、圧力とは、単位面積当たりに働く力のことですから、
P[Pa] = F[N] / S[m2 で表せます。
ですから、F[N] = P[Pa]× S[m2
となります。

求めたい封入された空気の圧力をP200[Pa]とおくと、

大気圧による力は、1.00×105(Pa)×1.00×10-4(m2) = 10.0[N]
封入された空気の圧力による力は、P200[Pa]×1.00×10-4(m2) = 1.00×10-4×P200[N]
鉤付きピストンとおもりに働く重力の和は、(100+200)×10-3(kg)×9.81(m s-2) = 2.943(N)

∴ 力のつりあいの式より、
10.0 = 1.00×10-4×P200 + 2.943

これを解くと、P200 = 70570 (Pa)となります。

これを有効数字3桁にして、7.06×104 Pa、これが答えです。



<別解> 圧力のつりあいの式を作って解きます。

   青字は、大気圧
 緑字は、封入された空気の圧力
 赤字は、鉤付きピストンとおもりに働く重力の和による圧力

 のように考えて解く方法です。

求めたい封入された空気の圧力をP200[Pa]とおくと、

大気圧は、1.00×105[Pa]
封入された空気の圧力による力は、P200[Pa]
鉤付きピストンとおもりに働く重力の和による圧力は、
(100+200)×10-3(kg)×9.81(m s-2) / 1.00×10-4(m2) = 29430(Pa)


∴ 圧力のつりあいの式より、
1.00×105 = P200 + 29430

これを解くと、やはり、P200 = 70570 (Pa)となります。(そりゃそうですが)

これを有効数字3桁にして、7.06×104 Pa、これが答えです。

こちらの方が、若干計算は簡単に済みます。



問4 おもりを400g にした場合の封入された空気の圧力も同様に求めます。

今回は、圧力のつりあいの式から解いてみます。


求めたい封入された空気の圧力をP400[Pa]とおくと、

大気圧は、1.00×105[Pa]
封入された空気の圧力による力は、P400[Pa]
鉤付きピストンとおもりに働く重力の和による圧力は、
(100+400)×10-3(kg)×9.81(m s-2) / 1.00×10-4(m2) = 49050(Pa)


∴ 圧力のつりあいの式より、
1.00×105 = P400 + 49050

これを解くと、P400 = 50950 (Pa)となります。

とりあえず有効数字3桁にすると、5.10×104 Paになります。


そして、PとVの関係を調べます。

おもりの重さ

P[Pa]

V[cm3] 

200g

7.06×104

1.50×101

400g

5.10×104

2.08×101



せっかく、選択肢が与えられているので、実際に計算してみた方が早いでしょうね。
電卓もあることですし。(化学グランプリに参加すると、無料で電卓が貰えます!)

以降、電卓が貰えるぜ! ということを別の大問でも繰り返すことがございますが、ご了承ください。

さて、計算してみますと、

おもりの重さ

P[Pa]

V[cm3] 

PV

P/V

V/P

P+V

200g

7.06×104

1.50×101

1.059×106

4.706×103

2.124×10-4

7.061×104

400g

5.10×104

2.08×101

1.060×106

2.451×103

4.078×10-4

5.102×104


(※小数第4位切り捨て)


最初のPVを計算した時点で、もう答えが出ましたね。
答えを最初に配置してくれるなんて、なんて親切なんでしょう!

というわけで、答えは、PV(です。

(b)は、単位もつけ、有効数字3桁で、1.06×106 Pa cm3

俺はセンチなんて許さないゼ! という人は、

1m3 = 1000000 cm3 = 106 cm3 より、


1.06 Pa m3 としてもよいでしょう。


ところで、[Pa] = [N/m2] と表すことができましたね!

ということは、[Pa⋅m3]=[N⋅m3/m2]=[N⋅m]となります。


よって、 1.06 N m と表すこともできます!


そして、さらにさらに、
[N]=[kg⋅m/s2] と変換することができます!

ということは、[N⋅m]=[kg⋅m⋅m/s2]=[kg⋅m2/s2]となりますので、

よって、 1.06 kg m2 s-2 とするのもOKでしょう。

徹底的に分解されましたね。


さてさて、そもそも、この 温度一定の条件でPVが一定になる という結論、
かの ボイルの法則
のことだったんですね!




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