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アルカンと構造異性体




   1.アルカンとは?

  アルカンとは、飽和脂肪族炭化水素、つまり、炭素と水素から成る化合物(炭化水素)で、水素が付けるだけ付いていて(飽和)、芳香族性(飽和でなく、電子が余っていても、共役等の性質のため反応を受けにくい性質)がないもの、つまり脂肪族 のことです。一般式でC2n+2で表されます。と、はじめから定義を並べ立ててもなんなので、とりあえず炭素数1〜10のアルカンで、直鎖のものについて見ていきましょう。

分子式

名称

CH

メタン

エタン

プロパン

10

ブタン

12

ペンタン

14

ヘキサン

16

ヘプタン

18

オクタン

20

ノナン

1022

デカン


  と、こんな具合ですが、赤で示した上から4つまでの慣用名を覚えさえすれば、あとはギリシャ語の数字の後に-ane、を付けただけなので、まあ、少しはラクなわけです。(ギリシャ語の数はここ以外の分野でも役に立ちます。)ここで、炭素数10のデカンを例に取ってみましょう。

     H H H H H H H H H H
     | | | | | | | | | |
   ―C―C―C―C―C―C―C―C―C―C―
     | | | | | | | | | |
     H H H H H H H H H H

  こんな感じに、炭素の結合の腕(原子価)4つを使って、まず炭素を直線状に繋げ、残った炭素の腕全てに水素を付けて、飽和にしてみると、両端の赤い2個の水素を除けば、炭素1個につき水素2個になっているのが分かります。つまり、一般的に考えると、炭素n個につき、水素が2n+2個付いているということなのです。だからC2n+2なのですね。
  ただし、アルカンは実際には上のような直線形をしているわけではありません。有機化学の部屋の背景に用いている分子模型は炭素数1のアルカンであるメタン(CH)ですが、アルカンの実際の形は、このように立体的に、メタンで言うと、水素原子が正四面体の各頂点にあるような形をしています。もっと大きなアルカンになると、下の写真のような形になります。この写真はペンタデカンC1532の分子模型です。(黒い多面体は炭素原子、白い球は水素原子を示しています。これは以後も変わりません。)


  参考までに、ギリシャ語の数をいくつか示しておきます。直鎖アルカンの命名方は、もうお分かりになりますよね?

モノ

トリ

テトラ 

ペンタ

ヘキサ

ヘプタ

オクタ

ノナ

10

デカ

11

ウンデカ(ヘンデカ)

12

ドデカ

13

トリデカ

14

テトラデカ

15

ペンタデカ

16

ヘキサデカ

17

ヘプタデカ

18

オクタデカ

19

ノナデカ

20

イコサ(エイコサ)

22

ドコサ

30

テトラコンタ



  2.アルカンの構造異性体

  さて、直鎖アルカン、という言葉を目にして、じゃあ、直鎖じゃないアルカンもあるの?と思った方もいると思いますが、まさにその通りです。アルカンには、構造異性体 と言うものがあります。では、まず炭素数1のメタンについて考えてみましょう。

     H
     |
   H―C―H
     |
     H

  メタンは、これしか考えられません。直鎖も何もあったもんじゃありませんね。この時、四つの水素は上下左右に関わらず全て等価(同じ)です。
  では、炭素数2のエタンではどうでしょうか。

     H H
     | |
   H―C―C―H
     | |
     H H

  エタンも、これしか考えられません。二つの炭素をつなぐ単結合は低いエネルギー障壁で回転可能なので、常温では自由に回転しています。
  炭素数3のプロパンはどうでしょうか。

     H H H
     | | |
   H―C―C―C―H
     | | |
     H H H


  プロパンも、これしか考えられません。

     H   H
     |   |
   H―C―――C―H
     |   |
     H H―C―H
         |
         H

         H
         |
     H H―C―H
     |   |
   H―C―――C―H
     |   |
     H   H

  こんなのも考えられるんじゃないの?と思われるかもしれませんが、一つの炭素原子に単結合を介してついた基(一定の性質を示す原子または原子の集団)は、位置関係としては全て等価であり、基本的に回転によって交換可能なので、上の三つは全て同じプロパンです。
  下に、これら三つの分子模型を示します。これを見れば、四つの基が基本的に交換可能と分かりやすいでしょう。

メタン

エタン

プロパン

 

 


  次は、炭素数4のブタンで考えてみましょう。

     H H H H
     | | | |
   H―C―C―C―C―H
     | | | |
     H H H H

  まず、直鎖のブタンが考えられます。そして、

     H   H   H
     |   |   |
   H―C―――C―――C―H
     |   |   |
     H H―C―H H
         |
         H

  この図だとちょっと分かりにくいですが、このような分岐アルカンである構造異性体(骨格異性体)(同じ分子式で分子の形が違うもの)が考えられます。ブタンには、占めて2個の構造異性体があります。下にブタンの二つの構造異性体の分子模型を示します。

ブタン

イソブタン

 


  では、炭素数5のペンタンはどうでしょうか。

     H H H H H
     | | | | |
   H―C―C―C―C―C―H
     | | | | |
     H H H H H


  まず、同様に直鎖のペンタンが考えられます。そして、

     H   H   H H
     |   |   | |
   H―C―――C―――C―C―H
     |   |   | |
     H H―C―H H H
         |
         H

  このような構造異性体(イソペンタン)が考えられます。さらに、

         H
         |
     H H―C―H H
     |   |   |
   H―C―――C―――C―H
     |   |   |
     H H―C―H H
         |
         H

  このような構造異性体(ネオペンタン)が考えられます。ペンタンには、占めて3個の構造異性体があるのですね。ここで注意しなければならないのは、

     H   H   H
     |   |   |
   H―C―――C―――C―H
     |   |   |
     H H―C―H H
         |
       H―C―H
         |
         H

  このような異性体も考えられそうなのですが、良く見ると一番長い部分は炭素数4であり、イソペンタンと同じということが分かります。このように、構造異性体を考える時は、一番長い炭化水素鎖(主鎖 )に着目して考えると分かりやすくなります。
  下にペンタンの異性体三種類の分子模型を示します。

ペンタン

イソペンタン

ネオペンタン






コラム:ページの有機化合物

メタン(methane)
CH

 系統名:carbane(methane)
分子式:CH
分子量:16.04
性状:無色気体
融点:-183℃
沸点:-161.4℃

  炭素数1である最も簡単なアルカンであり、有機化学の基本である。正四面体の各頂点に水素原子が一つずつ存在し、中心に炭素原子が存在するという形になっているが、これは、4対の結合電子同士が反発し、互いに最も離れた配置になるためである。(中心の炭素原子はsp混成軌道をとっている)
  天然ガスの主成分であり、嫌気性の古細菌であるメタン細菌によって沼中等で生成されるため、和名では沼気(しょうき)とも呼ばれる。大気中には平均0.00022%含有されている。メタンは強力な温室効果ガスであり、同量の二酸化炭素(CO)の21倍程度の温室効果をもたらす。また、天王星や海王星が青く見えるのは大気に2%程度のメタンを含むためであると考えられている。
  常温状圧では無色無臭の気体(空気に対する比重0.555)で、水(HO)に溶けにくく、有機溶媒には比較的溶けやすい。酸化剤・還元剤や酸・塩基とは比較的反応しにくいが、紫外線を照射することでハロゲン(周期表の17族元素)等に対して置換反応
(二つの物質が、互いに一部を交換しあう反応)を示す。下に例として塩素(Cl) との置換反応を挙げる。

 CH + Cl → CHCl + HCl
  (CHCl:クロロメタン・塩化メチル)

 CHCl + Cl → CHCl + HCl
  (CHClジクロロメタン・塩化メチレン)

 CHCl + Cl → CHCl + HCl
  (CHClトリクロロメタン・クロロホルム)

 CHCl + Cl → CCl + HCl
  (CClテトラクロロメタン・四塩化炭素)

  また、燃焼による酸化反応
(酸素を受け取る、水素を失う、または電子を失う反応)を受ける。下にメタンの完全燃焼(炎を伴った発熱反応により、反応物が二酸化炭素と水等の安定な物質まで酸化される反応) の化学反応式を示す。

 CH4 + 2O → CO + 2H

  メタンは含有する炭素に対する水素の割合が高いため、完全燃焼して発生する二酸化炭素の割合が少なく、比較的クリーンなエネルギーであると言える。
  メタンは天然ガスから得られるほか、一酸化炭素(CO)と水素(H) を反応させることで工業的に大量に生産されている。

 CO + 3H → CH + H

  実験室的製法を幾つか紹介する。
 ・酢酸塩(例えば酢酸ナトリウムCHCOONa)を強塩基(例えばソーダ石灰Ca(OH)・NaOH)と強熱し、求核置換反応により脱炭酸させる(脱炭酸反応)。

 CHCOONa + NaOH → CH + NaCO

 ・炭化アルミニウム(Al )に室温で水を反応させる。

 Al + 12HO → 3CH + 4Al(OH)

  主な用途としては、都市ガス等の燃料用ガスが挙げられる。また、C1化学
(炭素数1の化合物またはその誘導体を扱う化学) における原料物質となる。
  最近、海底にメタンが氷のかご型構造に取り込まれたメタンハイドレートと呼ばれる形で存在していることが注目されており、将来的なエネルギー源として有望視される。





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