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アルカンの命名法


  1.基本的なアルカンの慣用名

  炭素数が1から4の直鎖アルカンは、古くから知られており、その名前も広く行き渡っているため、化合物の規則的で一義的な命名を定めたIUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学機構)で定められたIUPAC名においても、慣用名を使用することが認められています。次にその慣用名を示します。

CH

メタン(methane)

エタン(ethane)

プロパン(propane)

10

ブタン(butane)


  なお、メタンは系統的に命名すると、カルバン(carbane)となります。

  2.直鎖アルカンの命名法

  炭素数5以上の直鎖アルカンについては、ギリシャ語の数字の後に、‐ane(アン)を付けて名前とします。幾つか例を示しておきます。

12

ペンタン

14

ヘキサン

16

ヘプタン

18

オクタン

20

ノナン

1022

デカン

1124

ウンデカン
(ヘンデカン)

1226

ドデカン

1328

トリデカン

1430

テトラデカン

1532

ペンタデカン

1634

ヘキサデカン

1736

ヘプタデカン

1838

オクタデカン

1940

ノナデカン

2042

イコサン
(エイコサン)

2144

ヘンイコサン

2246

ドコサン

3062

トリアコンタン

100202

ヘクタン


  3.分岐アルカンの命名法

  直鎖アルカンの命名法はご理解していただいたことと思いますが、ここではアルカン全般について考えていきます。アルカンを命名するには、まず、最も長い炭化水素鎖である、主鎖を決定せねばなりません。では、下に示したアルカンの主鎖はどれでしょうか。

     H   H   H   H   H
     |   |   |   |   |
   H―C―――C―――C―――C―――C―H
     |   |   |   |   |
     H H―C―H H H―C―H H
         |       |
       H―C―H     | H
         |       | |
         H     H―C―C―H
                 | |
                 H H

  分かれていたり、折れ曲がっていたりしても騙されないように。そう、正解は、

     H   H   H   H   H
     |   |   |   |   |
   H―C―――C―――C―――C―――C―H
     |      |      |
     H H――H H H――H H
                
       H――H      H
         |        |
         H     H―C―C―H
                 | |
                 H H


  図の赤で示した炭素のある部分ですね。そこで、分かりやすくするために、主鎖をまっすぐならべて、炭素に端から番号を付けていきます。ただし、このとき、主鎖に付いている炭化水素鎖(分岐鎖)のうち、一番はじめに来るものの番号がなるべく小さくなるようにします。

     H H   H   H   H   H H H
     | |   |   |   |   | | |
   H―C―C―――C―――C―――C―――C―C―C――H
     |@|A  |B  |C  |D  |E|F|G
     | |   |   |   |   | | |
     H H H―C―H H H―C―H H H H
           |       |
           H       H

  さてここで、分岐鎖の形を見ると、-CHとなっていて、まるでメタンがくっ付けたかのようですね。これを、メチル基、と言います。同様に、-Cとなっている分岐鎖をエチル基と言います。なお、メタンについて、水素一つがとれたものをメチル基、二つとれたものをメチレン(メチレン基)、特に二重結合で繋がっていればメチリデン基、三つとれたものをメチン基、特に三重結合で繋がっていればメチリジン基と言います。下に各炭化水素基を示します。なにもついていない価標(棒で表されている)は、実際には他の何らかの基に結合しています。

メタンとメチル基

メタンとメチル基・メチレン・メチン基

エタンとエチル基


  また、‐Cとなっている分岐鎖をプロピル基と言います。ただし、プロピル基には構造異性体が存在しているので注意が必要です。

    H H H
    | | |
   ―C―C―C―H
    | | |
    H H H

  であるプロピル基と、

    H   H
    |   |
   ―C―――C―H
    |   |
  H―C―H H
    |
    H

  であるイソプロピル基の二つです。下にプロピル基の異性体を示します。

プロパンとプロピル基・イソプロピル基


  これと同じことが、炭素数4のブチル基にも言えます。

    H H H H
    | | | |
   ―C―C―C―C―H
    | | | |
    H H H H

  であるブチル基と、

    H   H H
    |   | |
   ―C―――C―C―H
    |   | |
  H―C―H H H
    |
    H

  であるs-ブチル基(sec-ブチル基・二級ブチル基)と、

    H   H   H
    |   |   |
   ―C―――C―――C―H
    |   |   |
    H H―C―H H
        |
        H

  であるイソブチル基と、

    H
    |
  H―C―H H
    |   |
   ―C―――C―H
    |   |
  H―C―H H
    |
    H

  であるt-ブチル基(tert-ブチル基・三級ブチル基)の四つがあります。

ブタンとブチル基・s-ブチル基

イソブタンとイソブチル基・t-ブチル基


  さて、分岐鎖はまず付いている場所の番号を表記し、‐(ハイフン)の後にギリシャ語の数を頭に付けて個数を表して、その基の名前を表記し、最後に主鎖の炭化水素名を付けて、アルカン全体の名前とします。もし二種類以上の分岐鎖がある場合は、アルファベット順 に表記し、個数も分岐鎖ごとに考えます。ギリシャ語の数は、上記の表を参照して下さい。
  以上のことを考慮した上で上記のアルカンの名前を考えていくと、3番目と5番目にメチル基が合計で2個付いていて、主鎖は炭素数8のオクタンなので、『3,5メチルオクタン』となります。

アルファベット順で各基毎に(番号+ハイフン+個数基の名前)+主鎖の名前 

  つまり、以前の項で出てきた

     H   H   H
     |   |   |
   H―C―――C―――C―H
     |   |   |
     H H―C―H H
         |
         H


  イソブタンは2‐メチルプロパン、

     H   H   H H
     |   |   | |
   H―C―――C―――C―C―H
     |   |   | |
     H H―C―H H H
         |
         H


  イソペンタンは2‐メチルブタン、

         H
         |
     H H―C―H H
     |   |   |
   H―C―――C―――C―H
     |   |   |
     H H―C―H H
         |
         H


  ネオペンタンは2,2‐ジメチルプロパンとなります。

 


コラム:ページの有機化合物

エタン(ethane)
CH-CH 

 

系統名:ethane
分子式:C26
分子量:30.07
性状:無色気体
融点:-183℃
沸点:−89℃

  エタンは、炭素数が2のアルカンに属する有機化合物であり、異性体は存在しない。
  エタンは、天然ガス中でメタンの次に多く含まれる成分である。エタンという名前はエーテル(ジエチルエーテル)が起源である。
  常温で無色無臭の気体で、水に溶けにくく、有機溶媒に溶けやすい。酸化剤・還元剤や酸・塩基とはほとんど反応しないが、紫外線(光)の照射による置換反応を示す。次にエタンの塩素(Cl)との置換反応の一段階目を示す。

  C + Cl → CCl + HCl
  (CCl:クロロエタン)

  このようにしてメタン(CH)やエタンの水素原子をフッ素(F)原子・塩素(Cl)原子と交換していくと、フロン(クロロフルオロカーボン)を生じる。かつてフロンは冷蔵庫やエアコンの冷却材当に使用されていたが、近年はオゾン層破壊や温室効果を示すことから、代替物質への転換が進められている。
  また、エタンは燃焼による酸化反応を受ける。エタンは室温で可燃性であり、空気と3%〜12.5%の体積比で混合すると爆発性を示す。以下にエタンの完全燃焼の化学反応式を示す。

 2C + 7O → 4CO + 6H

  1834年、マイケル・ファラデー(1791-1867)によって酢酸カリウム(CHCOOK)水溶液の電気分解により初めて合成された。
(この当時はメタンが合成されたと考えられていた)
  また1847〜49年にかけ、ヘルマン・コルベ(アドルフ・ウィルヘルム・ヘルマン・コルベ1818-84)とエドワード・フランクランド(1825-1899)によって、プロピオニトリル(CHCHCN)とヨウ化エチル(CHCHI)を、金属カリウム(K)で還元することで合成された。(この時も生成物がエタンだとは考えられていなかった。)
  エタンの存在が始めて確認されたのは、1864年、Carl Schorlemmer(1834-92)によってである。
  エタンは工業的には石油を分留することで得られる。
  1960年代始めには、天然ガスから得られたエタンはメタンと分離されることなく燃料として使われていた。しかしそれ以降、エタンは重要な石油化学原料となり、天然ガス中から分離される最も重要な成分の一つとなっている。メタンとエタンは圧縮して液化した後沸点の違いを利用して分離される。
  実験室的製法としては、コルベ反応が挙げられる。これは酢酸(CHCOOH)塩水溶液の電気分解等の方法である。陽極
(電池の正極につながっている方の極。電子(e)が流れ出し酸化反応の起こる、アノードの一つ)において、酢酸イオン(CHCOO)は酸化され二酸化炭素(CO)とメチルラジカル(CH・)を生じる。(ラジカル:原子価が満たされず、奇数個の電子を持つことにより、不対電子を生じ反応性の高い状態。ホモリティック解裂(共有電子対が結合を形成する両者に均等に配分される形で共有結合が解裂すること)等によって生成する。・等を付けることで表す)このメチルラジカル同士が反応し、エタンが生成する。

 CHCOO → CO + CH・ + e

 2CH・ → C

  無水酢酸(CHCOOCOCH)を過酸化物
(-O-O-の構造を持つ化合物群)で酸化することでも得られる。
  エタンは蒸気クラッキングによるエチレン(CH=CH)の生成に最もよく使われる他、様々な化学物質の原材料として利用される。
  エタンは極低温の冷却材としても用いられる。電子顕微鏡を用いる際に水を多く含む試料をガラス化する目的で液化エタンが使用されることがある。





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