Location: Home > 挑戦!化学グランプリ! >  1次(筆記) > ラジカル反応・イオン反応 ['07-1-2a]



【2】は、主に有機化学に関する問題です。

化学グランプリの問題は、きちんと読めば、大部分は解けるはずなので、
まずは問題を読んでみて下さい。

解答で構造式を示す場合は以下の例にならって記しなさい
(問題文の図中で用いている形式でも構わない)。
 

 


上の図の左側は、大学入試で一般的に解答欄に書く構造式の書き方、ですが、
炭素や水素をいちいち書くのは面倒くさい。
そこで、炭素とそのまわりの水素を省略したのが、上の図の右側の書き方です。

実際、大学に入ってしまえば、専ら右の書き方をするはずです。
(筆者は、このページを作っている今現在、高3であるため詳しくは不明)

慣れれば、明らかに右の方が簡単だし、分かりやすいですよね。
それに美しいし。


…さて、それでは問題に挑戦しましょう!

 
  自然界,生体内には様々な生理活性物質が存在している。しかしながら,これらの多くは天然から極微量にしか採取できないため,構造や性質を理解し,また医薬品などとして応用するには,
人工的に供給する手段が必要である。そのため,天然物の全合成(種々の反応を利用して,最小単位の原料から,目的化合物を合成すること)は,古くから有機化学者にとって重要な研究分野である。全合成では,しばしば数十ステップにも及ぶ工程を経て複雑な分子がつくりあげられるが,反応の積み重ねから成り立っているので,反応一つ一つを理解することは重要である。この大問では最初に,高校の教科書に出てくる反応をもとに作題している。後半では,炭素−炭素結合をつくる有用な反応であるアルドール反応,および有名な天然物の全合成の一例を題材にしているので,問題文を良く読んで挑戦してください。


  有機化学の反応では,結合の開裂と生成が必ず含まれている。結合の開裂は多くの場合,電気的に均一に結合解離する場合と,不均一に結合解離する場合の2種類に大別される。図1に示すように,前者では共有電子対は2つの不対電子となり,1つずつそれぞれの原子に移る。この時生成する不対電子をもった化学種をラジカルと呼ぶ。一方,後者では,共有電子対を形成する電子2つが片方の原子に移り,陰イオンと陽イオンを与える(それぞれアニオン,カチオンと呼ぶ)。なお,前者のように電子1個が移動するときは釣針型の曲がった半矢印で表され,後者のように電子対が移動するときは両鉤の曲がった矢印で表される。矢印の向きは電子が移動する方向である。
 



 

  
  ラジカルやアニオン,カチオンは一般に反応性が高く,他の化学種と反応して新たな結合をつくる。以下に具体的な例を示して説明していく。まずはラジカルの関与する反応から考えてみよう。
  メタンと塩素の混合気体は,弱い光によってメタン分子の水素原子が塩素原子に置きかわった生成物を与える。以下にクロロメタンCH3Cl が生成するときの反応式を示す(式1)。
 



 

 
  図2にこの時の結合の開裂と生成の様子を示す(結合は電子式ではなく,価標で示してある)。塩素分子のCl—Cl 結合は,光のエネルギーを与えられると電気的に均一に結合解離して,不対電
子をもつ塩素原子Cl・(塩素ラジカル)2個を与える(開始反応)。生成した塩素ラジカルCl・はメタン分子のC–H 結合と反応し,塩化水素HCl になると同時にメチルラジカルH3C・を生じる(伝搬反応)。次いで,メチルラジカルと塩素ラジカルが反応すると,クロロメタンが生成する(停止反応)。このようにラジカルが関与する反応をラジカル反応と言う。



 

 
問1 アルカンを高温に加熱すると熱分解が起こり,酸素の無い条件では様々なアルカンとアルケンの混合物となる。この反応はラジカル反応機構で進行している。プロパンを熱分解して生成した混合物の中にはメタンおよびエチレンが含まれていた。次の小問に答えなさい。

(1) 開始反応が炭素—炭素結合の開裂によるとき,開始反応で生成する2種類のラジカルを化学式で答えなさい。

(2) 開始反応で生成した2種類のラジカルからメタンとエチレンの生成した反応機構を,釣針型の曲がった半矢印を用いて示しなさい。
 
 


問1 (1)有機化学の問題では、ほとんどの図を手作りしないといけないんですよね。
画質が悪い点に関しては勘弁して下さい。


さて、問題を解いていきましょう。

『開始反応が炭素-炭素結合の開裂』より、

 

となります。

プロパンには C-C 結合は2コありますが、
プロパン分子は対称的な構造をしているため、どちらが開裂しても
メチルラジカルエチルラジカルが生じます。

ラジカルを表す “・”を書く位置は、上でも横でもかまいません。(下図参照)




しかし、次のような書き方は避けましょう。




あくまでも、不対電子が存在するのは炭素原子上ですからね。




(2)エチレンの化学式は H2C=CH2 ですから、エチルラジカルの -CH3 部分のどれか1つの C-H 結合
が開裂して、分子内で2個のラジカルが結合を作れば、エチレンが生成します。(下図)




水素ラジカルは、もう一方のラジカル、メチルラジカルと反応してメタンになります。




以上の反応を2行にわたって書いてもいいかもしれませんが、解答欄が結構小さい(下図:実物大)ので、
1つの式にまとめた方がいいでしょう。

(小さく書けば入らないこともないでしょうが、1つの式にまとめた方が見栄えもいいです。きっと。)




というわけで、まとめると下のようになります。





 
  次に,イオンが関与する反応について,フェノールと水酸化ナトリウムの反応を例として考えよう。この反応では,フェノールの酸素原子と水素原子間の共有結合が開裂して,ナトリウムフェノキシドと水が生成する。このとき図3に示すようにフェノールのO—H 結合を形成していた2個の電子は酸素原子に移りフェノキシドイオンを与え,水素原子は水素イオンH+(プロトンと呼ぶ)としてOH-と反応して共有結合をつくり水が生成する(ナトリウムイオンは省略してある)。 
 



 

  
  異なる原子間の結合は,結合電子が一方の原子側に引き寄せられた極性共有結合である(注1)フェノールのO-H 結合は,結合電子が電気陰性度(注2)の大きい酸素原子側に引き寄せられている。したがって,水酸化物イオンの電子対は負に荷電したフェノールの酸素原子と反応するの
ではなく,正に荷電した水素原子と反応する。化学の言葉では,正に荷電した部分は求電子的で
あり,逆に負に荷電した部分は求核的であると表現される。
  このような電子の動きを考えることは,その反応を理解するうえで極めて重要である。一方で,フェノキシドイオンと水が反応してフェノールと水酸化物イオンが生成する反応も考えられる。対象としている反応がどちら側にどの程度進行するかどうか,また,どのくらい速く進行するかは,別の議論が必要である。なお,フェノールの反応は酸-塩基反応であるが,酸-塩基反応はイオン反応のなかでも簡単で最もよく知られた反応である。 
 

(注1) なぜ共有結合が不均一に開裂したり,イオンが共有結合と反応したりするのだろうか?
それは,イオン結合と共有結合の間には決定的な断絶があるわけではないからである。化学結合は,電子が完全に対称に分布した典型的な共有結合と,結合電子が完全に一方の原子に移動した典型的なイオン結合の間で,連続的に存在していると言った方が正確である。この度合いは,二つの原子の電気陰性度(注2)の差で見積もることができる。電気陰性度の差が大きければ結合電子は,電気陰性度の大きい原子の方により強く引き寄せられており,これを分極しているとい
う。また,このような共有結合を極性共有結合といい,電子対の偏りをδ+あるいはδ-として表す。

(注2) 電気陰性度は原子が共有結合を形成したとき,それぞれの原子が電子を引きつける強さ
を数値化したもので,数値が大きいほど引きつける強さは大きい。例えば水素=2.1,炭素=2.5,
酸素=3.5,塩素=3.0,臭素=2.8,ヨウ素=2.6 などである。
 
 
問2 下線部の反応の過程を電子の動きがわかるように両鉤の曲がった矢印を用いて表しなさい。
 
 

問2  フェノールと水酸化物イオンの反応では、水酸化物イオンが
フェノールのヒドロキシ基(-OH)部分の正に荷電した水素原子と反応したのでした。

では、フェノキシドイオンは、水(H-OH)のH側と反応するのでしょうか、それともOH側と反応するのでしょうか。




この問題を解決するには、電気員制度……変換ミスですね。

裁判員制度ならぬ、電気員制度。どんな制度なんでしょう(笑)


えー(笑)、電気陰性度を考える必要があります。
電気陰性度は、H= 2.1、O=3.5 と問題冊子に書いてありますから、
電子対は水素側ではなく、酸素側に偏っていることになります。

そのため、H原子は正にO原子が負に荷電しているわけです。
言い換えると、H原子は求電子的であり、O原子は求核的である、ということです。




さて、問題に戻ります。フェノキシドイオンは、誰がどう見ても陰イオンです。負の電荷をもってます。
ということは、当然、正に荷電した部分と反応しますね!



つまり、上の図のようになります!
問題文中の図3を食い入るように見れば、この考え方が浮かぶことでしょう。


まとめると、以下が答えになります。



酸素原子上の非共有電子対 (孤立電子対)は省略してもかまいません。
図3の書き方にならって書いたものです。

実際、酸素原子上の非共有電子対は数々の反応に関わってきますので、
書いた方が分かりやすいとは思います。


 
  エタノールに濃硫酸を加えて約130℃に加熱するとジエチルエーテルが生成する。図4に示すように,この反応では,まず,あるエタノール分子の酸素原子の非共有電子対がプロトンと結合してアルキルオキソニウムイオンが生成する。生成したアルキルオキソニウムイオンでは正電荷は酸素上にあり,C-O 結合の結合電子はより酸素側に引きつけられる。このとき別のエタノール分子の酸素の非共有電子対がこの炭素原子と結合し,同時に,C-O 結合が開裂して水が脱離する。その後,酸素原子上に残ったプロトンが水分子と結合することでジエチルエーテルが生成する。この反応の面白いところは,1分子のエタノールが酸の働きによって,正電荷をもった求電子的な化学種(アルキルオキソニウムイオン)になり,もともと求核的な別のエタノール分子と反応するところである。 
 



 

  
  一方,アルキルオキソニウムイオンが生成したときに,エタノールより求核的な化学種が存在
すると,ジエチルエーテルではなく異なる生成物が得られる。 
 
 
問3 エタノールが臭化水素と反応すると,ブロモエタンが得られる。反応機構を図4にならって描きなさい。
 
 


問3 図4にならって描けという指示通り、図4を食い入るように見て、反応機構を書きます。

反応機構を詳しく書くと、下の図のようになります。



求核的なエタノールのO原子が、求電子的な臭化水素のH原子と反応し、

アルキルオキソニウムイオンと臭化物イオンを生じます。


この臭化物イオンは、マイナス! と書いてあるくらいですから、当然、エタノールよりも求核的です。

そのため、ジエチルエーテルではない異なる生成物が得られます。

求核的な臭化物イオンと、O原子に電子を吸い取られ、求電子的なO原子の隣のC原子が反応し、



上の図のように、水を脱離して、ブロモエタンと水が生成します。


以上をまとめて、図4風に書くと、以下のようになります。




有機化学の解説は図が多い!

問4につづく。



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