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いよいよ有機最終問題! 今までのすべてが詰まっていますよ!

 
  トロピノン(図11)はアルカロイドと呼ばれる天然物の一種で,コカインやアトロピンといった薬理活性をもつ化合物と共通の骨格を含み,これらの生合成(注5)における重要な中間体であるとして知られている。1917年にロビンソン(R. Robinson, 1886—1975)は,トロピノン自体の生合成工程を参考に,3 種類の有機化合物【A】,【B】,【C】を一度に反応させてトロピノンの合成に成功した。この合成では,以下に記述する6つの反応が連続して起こっている。通常,一度に種々の反応が起こると複雑な混合物を与えるが,この合成は,反応の設計次第では,選択的に目的生成物が合成できることを示したおそらく最初の例である。各反応は以下の i)〜vi) のとおりである。なお化合物【A】はアルデヒド基を2つ,化合物【B】はアミノ基を1 つ,化合物【C】はカルボキシル基を2つとカルボニル基(ケトン)を1つもつ,それぞれ分子式が C4H6O2,CH5N,C5H6O5 で表される有機化合物である。
 



 

 
 i ) 化合物【A】の片方のアルデヒド基と化合物【B】のアミノ基が反応する。また,この際脱水が起
 こり,化合物【D】が生成する。

 ii ) 化合物【D】の窒素を含む官能基ともう一方のアルデヒド基が分子内で反応して環状化合物
 【E】となる。なお,この反応では酸素原子にプロトン付加が起こっている。

iii ) 化合物【C】から生成したエノールと化合物【E】が反応して炭素−炭素結合をつくり,化合物【F】
 となる。なお,この反応では生成物からのプロトン脱離が起こっている。

iv ) 化合物【F】中の水酸基にプロトンが付加した後,水として脱離し,それと同時に環内に二重結
 合が生成し,化合物【G】となる。化合物【G】は化合物【E】と共通の骨格を含む。

v ) 化合物【G】の鎖状部分がエノールとなり,反応iii)と同様の反応が分子内で進行して化合物【H】
 となる。

vi ) 最後に化合物【H】から2 分子の二酸化炭素が脱離してトロピノンとなる。
 



 

 
問7 化合物【A】〜【D】,【F】〜【H】を構造式で答えなさい。なお,一連の反応の概要と化合物【E】
  の構造は図12に示すとおりである。また,【E】のように正電荷をもつ化合物もあるが,対になる
  陰イオン(アニオン)に関しては考えなくてよい。


(注5)生合成:生体がその構成成分である生体分子をつくりだすこと。
 


問7 まずは、【A】と【B】を決定しましょう。

【A】→アルデヒド基を2つもつ分子式が C4H6O2 で表される有機化合物

アルデヒド基は、-CHOで表されるので、

C4H6O2 − (CHO)×2 = C2H4

という、数学者にとっては許し難いであろう無茶苦茶な計算式により、
残り物が C2H4 と求まりました。

したがって、【A】は、



↑の図で赤四角で囲ったものになりますね。

×をした分子は、アルデヒド基を2つ持っていませんので。

答えとしては、赤四角の中のどの分子を書いてもかまいません。
上に示した以外も書き方は大量に存在しますが、ここでは省略。

素直に一番左の書き方で書いてもいいし、
アルデヒド基を明示するために、真ん中の書き方をしてもいいし、
ちょっとカッコつけて、右の書き方をしてもいいでしょう。

ちなみに、模範解答はカッコつけてましたね(笑)。


 
【B】→アミノ基を1つもつ分子式が CH5N で表される有機化合物

アミノ基は、-NH2で表されるので、残り物は CH3 です。

というわけで、カッコつけることもできず、答えは CH3-NH2 となります(笑)。
 

 
続いて、i )の反応を見ていきましょう。

i ) 化合物【A】の片方のアルデヒド基と化合物【B】のアミノ基が反応する。
また,この際脱水が起こり,化合物【D】が生成する。




化合物【A】のアルデヒド基の酸素にプロトンが付加し、
正電荷が共鳴によって炭素原子上に移った際に、求核付加反応が起こり、
一番右の化合物を与えます。




続いて、正電荷をもった窒素の隣の水素原子がプロトンが脱離します。
次に、ヒドロキシ基上の酸素原子にプロトンが付加し、
水分子として脱離していきます。




水分子が脱離した後、共鳴によって、アミノアルコール中間体を生じます。




アミノアルコール中間体の正電荷をもった窒素原子の隣の水素原子がプロトンとして脱離し、
イミンを生じます。



ゆえに、【D】が求まりました!


おいおい、そんな方法が思いつくかよ、という方は、
模範解答的に解くこともできますね。


↑模範解答のやり方。実は先述の方法と同じ。


それでも分からない、という方は、ii )の反応の逆を辿るというやり方があります。

ii ) 化合物【D】の窒素を含む官能基ともう一方のアルデヒド基が分子内で反応して環状化合物【E】となる。
なお,この反応では酸素原子にプロトン付加が起こっている。




【E】を、目を皿のようにして見ると、アルデヒド基だったようなものが見つかります。

あとは、反応を逆にたどっていくだけです。

実はこっちのやり方の方が簡単だったりします。

たった1行で【D】が求まりました。
 

 
さてさて、次は【C】を求めていきましょう。

【C】→カルボキシル基を2つとカルボニル基を1つもつ分子式が C5H6O5 で表される有機化合物

カルボキシル基は、-COOH 、カルボニル基は、>CO ですから、残り物は C2H4 です。

さて、困りました。この条件を満たす分子は、下の4種類存在します。




全パターン考えている時間は、残念ながらありません。

こんな時は、最終生成物から判断します。



最終生成物、トロピノンの左側は、明らかに【E】を骨格としています。

ということは、【C】はトロピノンの右側を構成することになりそうです。

ここで、注目してほしいところは、トロピノンに至る直前の反応である、脱炭酸反応です。

これは、【C】におけるカルボキシル基部分が脱離したものと考えられるので、



図の左端の分子か、右端の分子が候補に残ることになります。

真ん中2つは、脱炭酸反応を起こしてしまったら、水色の□で囲った部位が不完全になってしまいますね。


さあ、2つのうちからどちらかを選ぶか、ですが、もうこれは見た目で決めてしまいましょう。



左側の分子は上下に対称的で、いかにも反応が進んでいきそうな感じがしますね?

一方、右側は、なんか一つの炭素にカルボキシル基が2つもついてるし、
不安定すぎて、Eとの反応以前に、分解してしまいそうです。




したがって、一番左の分子が【C】だと求まります。

まあ、最終生成物のトロピノンが対称的な分子なのだから、
4つの中で、対称的で、一番Cである可能性が高そうに「見える」
一番左の分子をいきなり選んでもかまわないと思います。 



長くなってしまったので、前半と後半に分けます。

次こそ、有機の最終回だ!


 


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